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東京高等裁判所 平成3年(ネ)4602号 判決 1994年2月22日

控訴人(ソヴィエト社会主義共和国連邦訴訟承継人)

ロシア連邦

右代表者特命全権大使

リュードヴィック・アレキサンドロヴィッチ・チジョーフ

右訴訟代理人弁護士

堀合辰夫

右訴訟復代理人弁護士

成田信子

大野友竹

甲原裕子

被控訴人

アクセノフ・エフゲニイ

右訴訟代理人弁護士

山本治雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の土地・建物について、真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3  被控訴人は、控訴人に対し同目録記載の土地・建物を引渡せ。

4  被控訴人は、控訴人に対し、昭和六一年一月一四日から右土地・建物引渡済みまで一か月金五〇万円の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

6  3・4につき仮執行宣言

二  被控訴人

控訴棄却

第二  当事者の主張

次のとおり付加・訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏八行目及び九行目をつぎのとおり改める。

「7 ソヴィエト社会主義共和国連邦(以下「ソ連邦」という。)は一九九一年(平成三年)一二月解体し、控訴人(ロシア連邦)がソ連邦の継続国家となった。日本政府は、同月二七日、控訴人をソ連邦と継続性をもつ同一国家として承認した。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件土地建物の所有権に基づき、第一申立一の1ないし6記載のとおりの判決を求める。」

二  同三枚目表一行目の次に行をかえて次のとおり加える。

「4 同7の事実中、ソ連邦が一九九一年(平成三年)一二月解体し、日本政府が控訴人をソ連邦の継続国家として政府承認したことは認める。」

第三  証拠<省略>

理由

一当裁判所も控訴人の本件請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決八枚目裏六行目の「こと」の次に「、同7の事実中、ソ連邦が一九九一年(平成三年)一二月解体し、日本政府が控訴人をソ連邦の継続国家として政府承認したこと」を加える。

2  同九枚目表八行目の「(大正一三年)」の次に「三月五日」を加え、同一〇枚目表一一行目の「病院」を「青木病院」と改め、同裏一一行目の「五九年」の次に「二月ころ」を、同一一枚目表一〇行目の「同人は、」の次に「九〇歳を超え反射神経の鈍麻や足腰の衰えはみられたものの、」を、同一二枚目裏三行目の「品川区」の次に「八潮」を、同七行目の「後、」の次に「受遺者である訴外武田夫妻を隣室に待機させた上、」を各加える。

3  同一五枚目表二行目の「二」の次に「、第六八号証の一」を、同行の次に行をかえて「また、甲第五八号証(控訴人訴訟復代理人弁護士成田信子作成の事実調査報告書)によれば、スティムが昭和五九年八月二三日と同年九月六日のことを記述した手帳と日付順及び項目別の二種類の日誌が存在する。」を各加え、同三行目から四行目にかけて「九月六日が初めて」を「八月二三日ではなく九月六日」と改め、同八行目の「難いし、」の次に「八月二三日のことがスティムの手帳には前日の八月二二日欄に、日付順の日誌には翌日の八月二四日付で各記載され、項目別の日誌の八月二二日の日付が八月二三日と訂正されているほか、日付順及び項目別の各日誌には当日遺言に立ち会っただけでは知りえない亡Tに関する記述があるなど不自然な点が多々あり、これはスティムが九月六日あるいはその他の日に経験した事柄や被控訴人からの伝聞を取り混ぜて記述したものと認められ、右手帳と日誌の記述からスティムが八月二三日に訴外武田夫婦宅を訪れた事実を認めることはできない。」を、同一一行目の「こと、」の次に「スティムは、本件遺言書において通事として立ち会ったと記載され、現に本件遺言書に通事として署名していること、被控訴人は、本件遺言書作成手続中、訴外武田夫妻とともに隣室で待機していたこと、訴外七造は、同日、本件遺言書作成手続に立会い、藤井公証人と亡Tとの間でスティムの通訳を介して本件遺言書の内容確認と読み聞かせ及び本件遺言書に関係者の署名・押印が行われる一連の手続を現認し、自ら証人として署名・押印していること、」を各加える。

4  同一七枚目裏一一行目の「よれば、」の次に「確かに右診断書には「亡Tが、現在、慢性的かつ不可逆的な脳の障碍を病んでおり、そのため判断力や倫理的識別力の間欠的な喪失があり、方角不見当の状態である。」との記載があるが、」を、同一八枚目表一〇行目の「い」の次に「し、後記認定の日本国駐在のソ連邦総領事による本件禁治産宣告は、右診断書に基づいて行われたものであるから、本件禁治産宣告が存在することだけで本件遺言書作成当時における亡Tの意思無能力を推定することはできないといわなければならない。」を、同裏六行目の「直ちに」の次に「本件遺言書作成当時における」を各加える。

5  同一九枚目表八行目の「しかるに、」を次のとおり改める。

「そして、外国に領事官を派遣することは、接受国の同意を必要とし、その権限も派遣国と接受国との間の条約等による合意もしくは接受国の同意が得られた範囲に限定される。領事官の派遣及び接受、その権限及び特権等に関する多国間条約である領事関係に関するウィーン条約(一九六三年成立、昭和五八年条約一四号。ソ連邦はこれに加入していなかった。)においても、領事官の他国領域内における職務権限については、裁判権の行使にわたる事項は一切認められていない。」

6  同一九枚目裏一行目の「ところ、」の次に「領事関係に関するウィーン条約は、ソ連邦はこれに加入していないので問題とする余地がないばかりでなく、禁治産宣告については何ら言及していないから、その加入国である日本国において外国の領事官が日本国内で自国民に対し禁治産宣告をすることを概括的に同意したと認めることはできない。次に、」を、同二〇枚目表一二行目の次に行をかえて以下のとおり各加える。

「また、領事官の権限に関するソ連邦の国内法である領事憲章(甲第三号証)は、領事官に対し、接受国内の自国民についてソ連邦の裁判又は審理機関としての職務権限を与えている(三一条、三三条)が、この権限については、当該接受国との関係において「居住地の国の法律で禁止されていない場合」との制限が付されているところ、わが法令、日ソ領事条約及びソ連邦の領事憲章の解釈上、日本国駐在のソ連邦総領事に在日ソ連人に対する禁治産宣告の権限を認めることはできない。」

7  同二〇枚目裏三行目の次に行をかえて以下のとおり加える。

「そして、本件禁治産宣告は、日本国内における禁治産宣告についての裁判権を排除されている日本国駐在のソ連邦の領事官が在日ソ連人に対して行った禁治産宣告であるから、本国において権限ある当局によってなされた禁治産宣告と同視することはできず、結局、外国の禁治産宣告の承認の問題も生じない。(仮にソ連邦の権限ある当局によってなされた禁治産宣告と解する余地があるとしても民訴法二〇〇条一号の要件を欠き効力を生じない。)」

二したがって、控訴人の本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官時岡泰 裁判官大谷正治 裁判官小野剛)

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